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2015年9月 4日 (金)

憧れの水晶岳へ 番外編

Rimg1364rもしも、登山道で人が倒れていたら、どうする?

先日、北アルプスの裏銀座から大町の湯俣温泉に通じる竹村新道を下っていたら、ひとりの若い女性が空荷でゼイゼイと登ってきた。
「上で6,7人の団体とすれ違いませんでしたか?」
「はい」
「何分前ですか?」
「4,5分前かと…」
「下に倒れているお年寄りがいます。できたら声をかけていって下さい」
「下の小屋に連絡しましょうか?」
彼女は少し考えてから、「はい。お願いします」

はたして、南真砂岳と湯俣岳の鞍部に老人が道を塞ぐようなかたちでグッタリと寝転んでいた。
側には老人のザック、そして上に向かっていった女性のものと思われるザックがゴロンとあった。
具合が悪そうに横になっている男性は、70代半ばとといったところか、声をかけると弱々しい言葉が返って来た。
「どうしましたか?」
「気分が悪くて」
「どこか痛いでしょうか」
「胸が痛みます」
「心筋梗塞の既往がありますか?」
「あるかも知れません」
僕は手袋を取って、脈を取ってみた。彼のては驚くほど冷たい。脈が弱くて取れない。
幸い顔色は紙のように白くはない。言葉のやり取りは出来る。ただし、いくら休んでいても、自力で歩けそうもない。そう感じた。

遭遇した時間と彼の名前を急いでノートにメモした。

何だろう?心筋梗塞?狭心症? なにはともあれ下の小屋に連絡しなければと思った。
雨に濡れた悪路を焦って下る。
何度も転びそうになるも下り下った。
風景撮影が趣味である僕だが、カメラを取り出すのが不謹慎のような気がして、とにかく下山を急いだ。

もとより今夜はその小屋に泊まるつもりでいた。
小屋にたどり着き、小屋の主人にかくかくしかじかと話すと、小屋の主人はすぐさま各方面に連絡を取り始めた。
彼の行動は実に慌ただしく見えた。

僕が小屋に着いたのは13時半であったが、15時になって、長野県警と書かれているキャップをまぶかに被った、長身で屈強な男3人が小屋に現れ、無線でやり取りしながらすぐに小屋を起っていった。

翌朝。
目が覚めると、助け出された老人が元気そうな姿で小屋にいた。
昨日すれ違った女のガイドさん。そして県警の若い3人。

小屋の人から昨夜の到着は21時をまわっていたという。

誰もが口を開くことなく朝食を摂っている。
助け出された老人が「昨日は申しわけありませんでした」と一言。
それに対して、皆頷くだけで言葉を発する者は誰ひとりいない。
……
県警A (…あんたの為に7時間以上かかったよ……)
県警B (…昨夜は飲み会の約束があったのになあ…)
県警C (…疲れた。まあ、無事で良かったんじゃない…)
女性ガイド (…お年寄りを連れて行くのは大変なことね…)
……
そんな発言が有る筈もないが、そんな無言のやり取りが聞こえそうな重苦しい朝メシだった。

警察官に診断名を聞こうとしたが、彼らの職業的な鋭い目が僕を制している。
余計なことを聞くな。聞いたって滅多なことじゃ教えられない。
でも、一言「高山病」と言った。

高山病はひどい頭痛があると聞く。
あの時彼は胸が痛いと言った。
本当に高山病なのか?

診断名はどうであれ、考えてしまった。
山深く、人の往来のない登山道で倒れている人を見たらどうしたらよいのか。
今回の経験で、結局僕は焦る必要がなかったのだ。焦って2次災害に逢わなくて良かったと思う。
森林限界より上での事故であれば救急ヘリを飛ばせるだろうが、樹林帯ではヘリは無理と聞いている。
僕がいくら速やかに外部と連絡しようが、当局が救援体勢を整えるまでには気象状況や様々な判断を要するだろう。
まあ結局、その老人は元気で下山できた。ヨカッタヨカッタ。

僕にとってもすごく勉強になったよ。
でも、次、そんな場面に遭遇したら…
あなたならどうする???

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