わが母の記
GWの最終日だが、天気予報は大荒れ、アウトドアの楽しみを諦め、年老いた母と二人で映画に出掛けた。
母が「お願いだから、連れて行ってよ」とせがんだのは「わが母の記」であった。
面倒くさいという私に、母は納戸から一冊の煤けた本を持ちだしてきた。
見ると、井上靖の「わが母の記」。なんと、昭和50年の初版本であった。装丁も立派。
「途中までしか読んでないの」・・そうであろう。井上文学と我が母の感性とは些か距離がありすぎる。しかし、映画の原作を母が持っているというのには驚かされた。
テレビでプロモーションビデオでも見たのか、この新作映画が彼女の深いところに強くインプットされてしまったようだ。どうしても連れて行けと言う。
実は、天気に恵まれなかった今回の連休、3日前に家族で隣町のシネコンへ出掛けたばかり。
そのときも、「わが母の記」は候補に上がったが、妻と子供が「テルマエ・ロマエ」を見たいと言い張るので、家族みんなでそれを見た。
しかし、「テルマエ・ロマエ」は、妻と子供には面白かったようだが、私には駄作としか映らなかった。くだらない時間を費やしてしまった。
母も楽しめなかったようだ。
邪険にしたまま、この先母に死なれたら、夢見が悪いので仕方がない。まあ、口直しの意味も含めて、今日再びリベンジに出掛けることにするか。
「わが母の記」は、たいそう味わいのある映画であった。
認知症の母親が巻き起こすエピソードを坦々と描き、大きなストーリー展開はないのだが、樹木希林と宮崎あおいの好演技が印象に残る。義歯を外して年寄り顔貌を作った、女優・樹木の役者根性に拍手。泥酔する宮崎の演技も可愛かった。
また、昭和のよき時代の伊豆、軽井沢、川奈ホテル等の建物や風景の映像が美しく、見応えがあった。
見終わった後、「私も徘徊老人になるのだろうか」と母は怖ろしそうであったが、足の悪い母だから遠くに行く心配はない。
すっかり円背で、右手に杖を突き、前をゆく私のベルトを左手でつかんで歩く母。一歩一歩にとても時間がかかる。オンブをした方がずっと速いが、この映画で主役の役所広司が樹木を背負うシーンが有名なだけに、さすがに映画館周辺でオンブはできなかったね。
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